はじめに
これまで見てきた指標のひとつである
労働装備率は、経営の三つの要素(人・物・金)のうちの物についての1人当たりの指標で、
金については
一人当たり経常利益でみてきました。今回は最後の1つである人についての指標である一人当たり人件費についてみていきます。
1人当たり人件費とは
一人当たり人件費とは従業員一人当たりにどれだけ人件費がかかっているのかを見る指標です。人件費は1年間にかかった資金の流れを見るフロー項目で、従業員数はある一時点の量を見るストック項目です。ストック項目をフロー項目に近づけるために期首と期末の両方の数値の平均値を使います。
一人当たり人件費の業界平均
計算で一人当たり人件費の業界平均を求める
まずは各業界の一人当たりの人件費を見ていきます。ただ一人当たりの人件費の各業界の平均値のデータは見つけることができませんでした。そこで経済産業省が発表する「2019年企業活動基本調査確報−平成30年度実績−」から、各業界の労働分配率と労働生産性の数値を参考に、計算で求めることにします。
後述しますが労働分配率と労働生産性の数値がわかれば、それを掛け合わせることで1人当たりの人件費が求められます。
計算をもとにした各業界の一人当たりの人件費の業界平均は、以下のようになります。
条件で差のでやすい指標
一人当たり人件費は全業種で428万円、製造業では559万円です。業種による開きが大きいのが特徴で、電気772万円、鉱業749万円、化学工業636万円、鉄鋼業616万円、電気機械器具583万円と高い業種もあれば、小売業245万円、飲食サービス業157万円と低い業種もあります。
また個人の能力による違い、年齢の違い、勤務体系の違い、職種の違い、地域の違いによっても異なります。使うときはなるべくこうした条件の近い企業がいいので、同業他社や過去の実績との比較で使うといいでしょう。
平均年齢も合わせてチェック
一人当たり人件費を使うときは同時に平均年齢も比較するようにしましょう。平均年齢は商法の営業報告書(定時株主総会の招集通知に添付されている)や有価証券報告書で確認することができます。有価証券報告書ではこのほか、平均勤続年数、平均年間給与(最近の平均支給額、賞与や福利厚生費は含まれず)も開示されています。
労働分配率と労働生産性との関係
利益に見合った人件費か否か
労働生産性もチェック
給料が同業他社や世間一般の賃金と比較して高いか低いかは、企業の評価にもかかわってきます。しかしながら平均年齢を加味しても、給料が高い割りに利益や労働生産性(1人当たりの付加価値)が同業他社と比較して低い場合には、経営者は人件費にメスを入れる必要があります。
労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)を高めてやれば人件費はアップしますが、それは経営の大きな圧迫要因となります。利益に見合った人件費であるのかどうかの確認も重要です。
人件費が経営を圧迫していないか?
例えば一人当たりの人件費がともに600万円のA社とB社があったとします。A社の労働生産性(一人当たりの付加価値)は1200万円で、労働分配率(付加価値に占める人件費の割合)は50%です。一方B社は労働生産性は800万円で、労働分配率は75%です。
年度 | A社 | B社 |
一人当たり人件費 | 600万円 | 600万円 |
労働生産性 | 1200万円 | 800万円 |
労働分配率 | 50% | 75% |
1人当たりの人件費は同じ600万円でも、A社は高い付加価値を上げ、付加価値に占める人件費の割合も高くはないので、経営への負担も少ないといえます。一方でB社は1人当たりの付加価値がA社よりも低く、付加価値に占める人件費の割合が高いので、経営への圧迫要因となっています。
このように1人当たりの人件費が同じでも実態はかなり異なることがあるので、労働生産性も合わせてチェックしておくことが重要となります。
※参考資料
この記事を書いた人

kain
経営分析のススメ管理人のkainと申します。2013年よりサイトを運営しています。長い投資実績と16冊の参考書籍をもとに、企業の収益性、安全性、活動性、生産性、成長性に関する分析手法に関する記事を多数執筆。
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text 2020/08/18
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