はじめに
多くの企業が生産を合理化するために、製造、組み立て、加工など様々な分野で機械化を進めています。この機械化の進展による生産の合理化具合を見る指標の一つが労働装備率です。今回は労働装備率とはいったいどういったものなのか、その計算式や意味を詳しく解説していきます。
さらに労働装備率を使う上での注意点や、各業種の平均労働装備率の数値などもみていきます。また大手自動車メーカー各社の労働装備率の違いについても取り上げます。
労働装備率とは
労働装備率は一人当たりの設備投資金額
労働装備率は設備投資金額(有形固定資産)が従業員一人当たりにするとどのくらいになるかを表します。この数値から生産の合理化具合を判断します。
機械化、自動化、省力化による生産の合理化
多くの日本の産業では、溶接や組立をはじめとした工場での作業を機械化し、より高性能な工作機械の開発を進めて行く事で作業の自動化すすめ、こうした機械が人にとって代わることで省力化を進展させています。こうした機械化、自動化、省力化により、生産はより合理化されていきます。
こうした生産の合理化を進むと機械装置や工具器具備品などの有形固定資産は増加すると同時に、こうした設備が人にとって代わることで従業員数や人件費はスリム化されていきます。
その結果、従業員1人辺りの有形固定資産額である労働装備率は増加していきます。生産の合理化によって向上していく労働装備率を見ることで企業の合理化具合を判断することができるのです。
労働装備率の計算式
労働装備率は上記の計算式から求めることができます。ちなみに建設仮勘定とは建設中で未稼動な建物を計上したものです。
労働装備率の使い方
労働装備率は同業種や自社の過去の実績と比較
労働装備率は業種ごとの特殊性がよく反映される指標です。以降で各業界の労働装備率の平均を詳しく見ていきますが、労働装備率の高い電機業界は20,092万なのに対し、低い業界の飲食業は217万と業種によってこれだけ差があります。したがって業種別での比較はあまり有効ではありません。同一業種や自社の過去の実績との比較が有効でしょう。
減価償却の仕方でも差が出る
またおなじ業種でも減価償却の仕方の違いによる差にも注意が必要です。減価償却には定額法と定率法があります。取得原価100万円、耐用年数が5年であれば、定額法の場合初年度の減価償却費は20万円で、差引帳簿価格は80万円に、定率法の場合は初年度50万円で差引帳簿価格は50万円になります。おなじ年におなじ有形固定資産を購入しても減価償却の仕方の違いにより差引帳簿価格に差が出てしまうのです。
| 定額法 | 定率法 |
取得原価 | 1,000,000 | 1,000,000 |
減価償却累計額 | 200,000 | 500,000 |
差引帳簿価格 | 800,000 | 500,000 |
従業員 | 1000 | 1000 |
労働装備率 | 800 | 500 |
土地の金額が多い場合は除いて比較を
それから有形固定資産の中に土地が多く含まれるときは、土地は除いて償却資産を比較した方が適切です。合理化とはあまり関係のない土地や建物を所有している場合と、賃借している場合とでは労働装備率に大きく差が出てしまうからです。
労働装備率の業界平均
全産業、製造業、非製造業の業界平均
それでは2018年度の各業界の労働装備率の平均値についてみていくことにします。まず全業種平均は1055万円で、製造業は1047万円、非製造業は1058万円となっています。
労働装備率の高い業界
次に労働装備率の高い業界についてみていきます。特に高いのが電気業と不動産業、石油業界です。電気業は大規模な発電設備などを抱えており、不動産業は多くの不動産を抱えています。石油業界も多くの設備を抱える業種です。こうした業種による特徴により、他の業界と比較して非常に高い労働装備率となっています。
労働装備率の低い業界
一方で小売業や建設業、飲食業などの労働装備率は、他の業界と比較しても低い数値となっています。飲食業は接客や調理など主に人件費の多い業種です。建設業は保有する設備は建設機械などが中心で、大規模な生産設備など抱えているわけではありません。
小売業は商品を仕入れて販売することがメインです。このように生産設備を多く抱える業界ではないので、他と比べても低い労働装備率となっています。
自動車大手3社の労働装備率
次に自動車業界の大手3社の労働装備率の違いについてもみていきます。下の表は2018年度の数値です。ホンダや日産にくらべて労働装備率の低いトヨタはそれだけ生産の合理化が遅れているとみることが出来ます。
| トヨタ | ホンダ | 日産 |
有形固定資産(百万) | 10,685,494 | 5,305,698 | 7,430,689 |
従業員 | 370,870 | 138,893 | 219,722 |
労働装備率(百万) | 28,8 | 38.1 | 33,8 |
まとめ
今回は労働装備率について詳しく見ていきました。企業の機械化、自動化、省力化が進み、生産の合理化が進展していくにつれ、設備投資金額(有形固定資産)は増えていくと同時に、人件費は削減され、1人当たりの設備投資金額である労働装備率は増加していきます。
労働装備率は企業の合理化具合を判断する一つの目安となります。業種による平均値の違いも大きいので、使う場合は同業他社や業界平均、自社の過去の実績と比較してみるといいでしょう。
※参考資料
経営分析の基本
経営分析の考え方・すすめ方
これならできる!経営分析
この記事を書いた人

kain
経営分析のススメ管理人のkainと申します。2013年よりサイトを運営しています。長い投資実績と16冊の参考書籍をもとに、企業の収益性、安全性、活動性、生産性、成長性に関する分析手法に関する記事を多数執筆。
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最終更新日 2020/01/01
公開日 2011/06/21
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