研究開発の重要性
製品には寿命があり、いずれは新商品に取って代わられる運命にあります。会社が存続するためには、消費者の要求にこたえながら新商品を開発していくことが必要になります。研究開発は会社の存続と成長を左右する重要な鍵になるものなのです。
今回は企業がこの研究開発にどれだけの資金を投入し、それが売り上げに対してどのくらいの割合なのかを見る売上高研究開発費率について詳しく見ていくことにします。
売上高研究開発費率とは?
研究開発費は会社の成長性を判断する重要な指標のひとつです。その研究開発費と売上高の比率から会社の成長性を判断するのが売上高研究開発費率です。売上高研究開発費率では分子に研究開発費をおき、分母に売上高を置いて計算します。
研究開発費の金額の把握
研究開発費は製造原価や販売費及び一般管理費に含まれますが、区分記載されていなかったり注記されていない場合もあります。その場合でも有価証券報告書の事業の状況、概況に研究開発活動という項目で、研究開発活動の概況と金額が記載されているので、そこで確認できます。
トヨタ自動車の2020年3月期の有価証券報告書を例に見てみることにします。まずは有価証券報告書の目次の欄から研究開発活動が何ページなのかを確認します。

次にそのページの中から研究開発費について記載された箇所を探します。トヨタ自動車の2020年3月期の研究開発費は1兆1103億6900万円だということがわかります。
各業界の売上高研究開発費率について
売上高研究開発費率を見る場合、自社の過去の実績や業界平均などと比較してみることも重要です。そこで経済産業省が発表する「2019年企業活動基本調査確報−平成30年度実績−」から、各業界の売上高研究開発費率を紹介します。
まず全産業の売上高研究開発費率は4.02%です。特に高いのは化学工業や電気機械などの製造業です。ソフトウェア業界も比較的高い業種です。逆に小売りや飲食サービスなどは売上高研究開発費率が1%を下回っており、こうした業種は他の業種に比べ研究開発費への資金投入は少ないようです。
研究開発と収益との関係
日本において売上高研究開発費率の高い業界の一つが製薬業界です。製薬業界では新薬の開発が会社の命運を左右するとも言われています。この多額の研究開発費をまかなうためには強固な財政基盤と利益が必要になります。製薬業界は売上高研究開発費率が高いと同時に売上高経常利益率が高いのも特徴で、この高収益体制があることにより多額の研究開発費を投じることが可能になります。
多額の研究開発費を投じて競争力のある新商品を開発し、それがたくさんの利益を生むことで収益性が向上し、もたらされる利益が次の研究開発費の原資となるという好循環を持続することができるかどうかが企業の存続と成長の鍵となります。
■製薬会社の売上高研究開発費率(2014年度)
| 売上高研究開発費率 | 売上高経常利益率 |
武田薬品 | 20% | 7.7% |
アステラス | 16% | 14% |
第一三共 | 17% | 9.3% |
エーザイ | 21% | 10.8% |
売上高研究開発費率の傾向を見る
研究開発はその期にすぐに効果が出るというよりも知識と研究成果の蓄積が大切で、その上に次の新製品の開発がつながっていくものです。したがって売上高研究開発費率を見るときは単年度だけではなく、数年間の期間でその推移を見ることも重要になります。ある期から急に研究開発に力を入れ始めた企業なのか、数年にわたり継続的に研究開発に力を入れている企業なのかなどを判断するのに役立ちます。
こちらも自動車業界を例に見ていくことにします。以下はトヨタとホンダ、日産の2016年から2019年までの売上高研究開発費率の推移です。

最大手のトヨタ自動車は2016年は3.7で、2019年は3.4とやや減少傾向にあります。ただ2020年には3.7%に戻っています。大体このあたりの範囲で安定して推移しているようです。安定した研究開発費の投入を行っていることがうかがえます。
一方で本田は16年の4.9から19年には5.5と、近年売上高研究開発費率は増加傾向にあります。2019年には研究開発費は8214億円を記録し、トヨタの2019年の研究開発費の1兆490臆円に迫る数値です。売上高はトヨタは2019年で30兆2260億円なのに対し、ホンダはその半分以下の14兆9310億円なので、ホンダがいかに研究開発に力を入れているかがわかるかと思います。
最後に日産ですが、4.2〜4.5とちょうどトヨタとホンダの中間ぐらいの値で推移しています。2019年は5.5と大きく伸びていますが、これは2018年の売上高11兆5742億円が、2019年には9億8789億円までさがったことが大きな要因です。研究開発費自体は2018年は5231億円で、2019年は5448億円なのでそこまで大きく伸びたわけではありません。
まとめ
今回は売上高研究開発費の求め方から、実際にどのようにして使うのかを詳しく見ていきました。研究開発費は企業の今後を予測するうえで非常に重要な項目です。また研究開発というのはすぐに成果の出るものではありません。そのため売上高研究開発費率がどのくらいの数値なのかを単年だけでなく、数年の推移でみていくことも重要です。
※参考資料
この記事を書いた人

kain
経営分析のススメ管理人のkainと申します。2013年よりサイトを運営しています。長い投資実績と16冊の参考書籍をもとに、企業の収益性、安全性、活動性、生産性、成長性に関する分析手法に関する記事を多数執筆。
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最終更新日 2020/08/13
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