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営業キャッシュフローで企業分析




営業キャッシュフローを使って企業分析

営業キャッシュフローとは企業の主たる営業活動に関わる現金収支のことで、営業活動からどれだけ現金を生み出せているかを見るものです。営業キャッシュフローは事業を継続していくための運営資金や新規投資のため資金、借入金を返していくための資金の源泉として非常に重要で、営業キャッシュフローをしっかり稼いでいないと、満足に事業を継続していくことも困難になります。このように企業にとって営業キャッシュフローは非常に重要な項目なのです。そこで今回は営業キャッシュフローを使って企業分析を行っていくことにします。

営業キャッシュフローを求める式には直接法と間接法という二つのやり方が有ります。一般には間接法が使われることが多いため、今回は間接法を使って営業キャッシュフローを分析していきます。今回分析の対象とするのは日本の代表的な自動車産業の大企業であるトヨタと日産です。

■今回使う指標
営業キャッシュフロー



営業キャッシュフローと営業利益を比較

損益計算書の営業利益は収益から費用を引くことで求められますが、営業キャッシュフローは現金収入から現金支出を引いて求めます。この収益と現金収入、費用と現金支出の違いは実際に現金の流出入があるかないかによるところが大きいです。収益と費用では実際の現金の流出入がなくても計上されている項目も多数有ります。これは発生主義や実現主義など収益と費用をどの時点で計上するかという考え方の違いにより生じるもので、営業キャッシュフローを求めるのに使う現金収入と現金支出はあくまで実際の現金の動きがあった際に収入・支出として計上される現金主義に基づいています。現金主義、発生主義、実現主義についてはこちらのページで詳しく解説しています。

営業キャッシュフローを求める式の一つである間接法では、税引前当期純利益に実際に現金の流出入が伴わない項目を加減して営業キャッシュフローを求めていきます。営業キャッシュフローは営業利益と比較することも有効です。営業キャッシュフローと営業利益がともに連動して増減していれば、それは業績の影響によるものだと判断できます。逆に営業キャッシュフローと営業利益の増減に大きな違いが見られる場合は取引方法の変化によるところが大きいと考えられます。具体的には掛けでの売上、仕入の比率の変化です。掛けによる売上が増えれば営業利益には計上されてもかけによる売上は営業キャッシュフローには計上されません。また掛けにより仕入が増えた場合は営業利益には計上されますが、こちらも営業キャッシュフローには計上されません。営業キャッシュフローと営業利益の増加の連動性を見ることで、取引方法に大きな変化が生じているのかどうかを把握することが出来ます。

2期分の営業キャッシュフローと営業利益の増減を比較し、連動しているかどうか、変化が見られる場合はどの項目が原因なのかを実際にトヨタ自動車を例に見ていくことにします。

・トヨタ自動車の営業キャッシュフロー(単位:百万円)
2013年度2014年度
非支配持分控除前当期純利益1,991,6482,307,904
減価償却費1,250,8531,409,075
貸倒引当金繰入額49,71878,969
退職・年金費用20,6543,161
固定資産処分損28,65731,625
売却可能有価証券の未実現評価損6,1972,578
繰延税額-56,279-26,887
持分法投資損益-318,376-308,545
受取手形及び売掛金の増加-121,92669,477
棚卸資産の増加-110,819171,001
その他の流動資産の増加-77,645-43,355
支払手形及び買掛金の増加65,312150,058
未払法人税等の増加・減少438,527-246,043
その他流動負債の増加277,659494,254
その他201,85579,759
営業キャッシュフロー3,646,0353,685,753
営業利益2,292,1122,750,564

まず計算のスタートとなる非支配持分控除前当期純利益ですが、これは法人税が引かれる前の利益ではなく、引かれた後の利益です。本来は税引前の利益を用い、計算の過程で法人税を引いて営業キャッシュフローを求めますが、先に法人税が引かれた税引き後利益である非支配持分控除前当期純利益を用いる企業も多くみられます。どちらの形式をとるかは企業により異なります。ホンダや日産は税引前利益からスタートして営業キャッシュフローを計算しています。

営業キャッシュフローの中身について見ていきますが、2期の営業キャッシュフローと営業利益の増減を比較して見ると、営業利益は約20%増加しているのに営業キャッシュフローは2期でほとんど変化がありません。営業キャッシュフローがほとんど増えてない要因を構成項目から分析してみましょう。まず大きな変化が見られるのは「受取手形及び売掛金の増加」と「棚卸資産の増加」です。掛けによる販売が増え、商品の在庫が積みあがっている現状が浮かび上がってきます。

続いて変化が見られる要因をみていくと、「支払手形及び買掛金の増加」、「未払法人税等の増加・減少」、「その他流動負債の増加」などが大きな変化が見られます。「その他」に関しては要因がわからないのでここでは省略します。未払法人税についてですが、企業は決算が確定した後に2ヶ月以内に確定した法人税を支払います。したがって決算時の時点ではまだ法人税は支払われてはいないので、費用として法人税を計上した後に負債として未払法人税を計上します。実際に法人税が支払われれば未払法人税は償却されます。その他流動負債や未払法人税等はどちらも負債で、負債が増えるということはその分現金が入ってくる、留保されるということになります。したがって負債の増加が営業キャッシュフローの増加要因となるわけです。

ではなぜ未払法人税の金額が2015年度で大きく減少したのでしょうか。まず法人税は2回に分けて納付され期中に前期の法人税額の半額が先に納付され、決算後に確定した法人税額から先に納付された金額が差し引かれた額が未払法人税額として計上され、その後支払われます。もし仮に前期の法人税額が少なければ、先払い法人税額の金額も少なく乗り、残りの未払法人税額が大きくなってしまいます。逆に前期の法人税額が今期とそれほど差がなければ先払い法人税額も相応の金額になるので、その後の未払法人税額が大きくなりすぎることも有りません。

トヨタ自動車は2012年度は当期純利益が9620億円で、2013年度は1兆8230億円と大きく伸びています。このため先払い法人税額が少なくなってしまい、結果未払法人税額が大きくなってしまったわけです。一方2014年は2兆1730億円と前回の伸びよりは緩やかな伸びに収まっています。このため先払い法人税額もそこまで小さくなることもなく、結果未払い法人税額が膨らまずにすんだわけです。このようにトヨタが2013年度と2014年度で営業キャッシュフローだけがそれほど増えなかったのは、2012年度から2013年度の当期純利益の大幅な伸びが影響しているわけです。それにより2013年度の未払法人税額が大きくなってしまったことで、その反動で2014年度の未払法人税額の計上額が大きく減少し、結果営業キャッシュフローがほとんど伸びない形となったわけです。税引後利益の増加や棚卸資産の増加、売掛金の増加やその他流動負債の増加など営業キャッシュフローを増やす要因もあったのですが、それ以上に未払法人税額の減少が響いたため、結果として営業キャッシュフローが伸び悩む結果となったわけです。



各社の営業キャッシュフローの中身を比較

次にトヨタと日産のそれぞれの営業キャッシュフローの中身を比較していき、営業キャッシュフローを構成している項目の比率にどのような違いがあるのかを見ていきます。

・自動車メーカー各社の2014年度の営業キャッシュフロー(単位:百万円)
トヨタ日産
税引前利益2,892,828687,421
非支配持分控除前当期純利益2,307,904490,097
減価償却費1,409,075782,277
減損損失-16,103
貸倒引当金繰入額78,96913,471
退職・年金費用3,161-7,653
リース車両残価損失純増減-41,911
固定資産売却損益--16,709
固定資産処分損31,62517,069
売却可能有価証券の未実現評価損2,578-
繰延税額-26,887-
持分法投資損益-308,545-106,513
受取利息及び受取配当金--31,748
支払利息-112,823
受取手形及び売掛金の増加69,477-64,118
棚卸資産の増加171,001-82,435
販売金融債権の増減額--707,321
その他の流動資産の増加-43,355-
支払手形及び買掛金の増加150,058125,840
未払法人税等の増加・減少-246,043-
その他流動負債の増加494,254-
その他79,75953,350
利息及び配当金の受取額-171,573
利息の支払額--114,695
法人所得税の支払額--197,899
営業キャッシュフロー3,685,753692,747
営業利益2,750,564589,561

キャシュフロー計算書は構成項目が企業ごとに異なっていることも多く、比較する際に不便を感じる場合もあります。金額が大きい項目ほど営業キャッシュフローへの影響も大きいので、まずは金額の大きい項目で比較して見るといいでしょう。金額が大きくて片方にしか載っていない場合は、意味が似ている項目があれば比較してみて、ない場合は片方の企業側だけでその影響を判断するしか有りません。例えば上の例であれば販売金融債権が特に大きな金額となっていますが、日産しか掲載されていないので、日産側だけでその影響を考えるしか有りません。

それでは金額の大きい項目を中心に見ていきます。まずは営業キャッシュフローを構成する項目の中で金額の大きい税引前利益と減価償却費ですが、日産は減価償却費のほうが大きいのに対し、トヨタが減価償却費のほぼ倍の金額を税引前利益で満たしています。トヨタは本業での稼ぐ力が非常に強いということがわかります。

日産の構成項目で営業キャッシュフローに大きなマイナスとなっているのが販売金融債権の増減額です。販売金融債権とは自動車をローンで販売し、現金がまだ未回収な債権のことです。ローンでの販売は販売増に大きく貢献しますが、販売金融債権の増加は営業キャッシュフローにはマイナスに働きます。日産は販売数維持のためにローンでの販売に重点を置きすぎていると見ることもできます。またトヨタと日産で棚卸資産を見るとトヨタは棚卸資産が減少傾向にあり、その分営業キャッシュフローにはプラスに働いています。逆に日産は棚卸資産が増加傾向にあるため、営業キャッシュフローにはマイナスに働いています。棚卸資産の面でもトヨタは販売好調、もしくは適正な在庫管理により、棚卸資産は減少傾向であるのに対し、日産は販売の伸び悩み、もしくは在庫管理に問題があるなどの理由から棚卸資産は増加傾向にあることがわかります。このように両社の営業キャッシュフローの中身を比較して見ることで、両社の販売状況の好調不調加減を推し量ることもできます。

トヨタは営業利益に対して営業キャッシュフローが1.5倍ほどの金額になっていますが、日産はその差がトヨタほど大きくは有りません。日産の営業キャッシュフローがトヨタほど差がないのは、ローン販売にたよる部分が大きくなっていることと、販売がトヨタほど好調ではなく在庫が積みあがっていることが要因として考えられます。




※参考資料


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text 2015/11/23




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